岡山家庭裁判所 事件番号不詳 決定
少年 R(昭一六・四・二九生)
主文
当裁判所が昭和三四年少第一三八五号窃盗、銃砲刀剣類等所持取締法違反保護事件につき、昭和三四年三月三〇日為した没取決定中符号二、紺色ラシャジャンバー一着、符号三、ピストル型ライター一挺、符号四、万年筆一本を没取する旨の決定はこれを取消す。
理由
第一、昭和三四年少第一三八五号事件送致事実の概要
少年は昭和三三年一二月一三日正午頃岡山県○○郡○○町○○○○園内、○○高等学校○○○教室舎監室内の座机の上に置いてあつた同教室舎監補○根○光保管に係る現金五六、〇〇〇円(五〇〇円札一一二枚)を窃取したものである。と云うにある。(同時に併合送致となつた銃砲刀剣類等所持取締法違反事件――許可なくして空気銃一挺を所持していたもの――の送致事実は省略)
第二、事件の発生及び搜査の経過
一件記録によつて搜査の経過を検討するに、事件発生の翌日である一二月一四日に至つて被害現金の保管者であつた舎監補○根○光から所轄警察署に被害届があり、即日司法巡査による実況見分調書が作成された。(届出が遅れた為現場が荒らされ、搜査の資料となるべきものは何等発見出来なかつた旨の記載がある。)
爾後何等手懸りとなるもののない儘に搜査は続けられていた標様であるが、翌年三月二六日に至つて参考人として取調べを受けた同校生徒で当時少年と同室していたK(当時一七歳)が、犯人は本件少年である旨を始めて供述するに至つた。
一、少年とK
因みに事件発生の日時頃の少年及びKの動静を、其の後の同人等の供述調書及び他の参考人等の供述調書によつて綜合推断するに、同室者は少年、Kの外T、Fの四名であつた。当日○○○教室では平常通り援業があつたが、Tは病棟に入院中でその室になく、残り三人の内少年とFは授業に出席し、Kは出席を怠り一人だけで室に残つていた。ところが午前一一時三〇分頃になつて少年は授業が面白くないと云つて室に帰つて来た。つまり窃盗事件は授業時間中に起つたものであるがその時刻頃授業に出席せず、舎監室に近い居室に居つて、事件につき嫌疑をかけられ易い状況にあつたのは、Kと少年の二名であつた訳である。故に両名が搜査線上に強力に浮び上つたものと思われる。
二、Kの供述
Kの供述調書の要旨は次のようなものである。即ちKがその日一人で室にいると少年は授業をサボつて帰つて来たが、二〇分位して室を出て行き、五分位して又帰つて来た。そしてズボンのポケットから「舎監室にこんなものがあつた」と云いつつ茶色の四角い封筒を出して見せた。表に「奨学資金」と書いてあり、中から五〇〇円札が三糎程のぞいており、相当な金額のように見えた。そして少年はKに対し自分が盗んだことを誰にも云うなと堅く口止めした。更に三、四日後に少年はKをグランドに連れ出し、同様のことを繰り返し念を押した上、見当で一〇〇〇〇円位と思われるワラ半紙に巻いた五〇〇円札を口止料として出したがKはこれを受取らなかつた。その後も「絶対にしやべるな」と強く頼まれたことがある。
以上が唯一つの目撃証人であるKの供述要旨である。
三、少年の自供調書
そこで少年に対し緊急逮捕の手続が取られた上同日同園内で司法警察員に対する少年の第一回の供述調書が作成された。少年は送致事実を認め、Kの供述と略同様の自供をした。そして盗んだ金の使途につき、次のように述べている。
一、五〇〇〇はKに貸した。
二、三〇〇〇〇は昨年末帰省したとき使つた。
三、一三〇〇はEから空気銃を買つた(銃砲刀剣類等所持取締法違反の組成物件)
四、六九〇〇はEからカメラを買つた。
五、三〇〇〇はSに貸した。
搜査官は直ちに右自供の裏付搜査を行つた結果次のような事実が判明した。
一、のKは金を借りていない。
三、の空気銃はEが無償でやつたものである。
四、のカメラは月賦で売つたもので、しかも本件より前に支払は終つている。
五、のSは金を借りていない。
よつて司法警察員は二七日第二回の自供調書を作つた。その結果金の使途について次のように異つた供述をするに至つた。
一、二〇〇〇〇は昨年末の帰省の時費消した。
その内訳
イ、五〇〇は土産物
ロ、二五〇〇は市内(熊本)見物等
ハ、七〇〇は○○園で他人にやる
ニ、二五〇〇はジャンバー一枚
ホ、七〇〇はライター一個
ヘ、七〇〇は万年筆
二、二六〇〇〇は母親に預けた
三、五〇〇は熊本駅で落した
尚右供述調書の中で父母からの送金は、三三年夏休に一、〇〇〇円送つて来て以来今迄に一回も送金がない旨述べている。
四、参考人の供述調書
以上の外○○園事務局係員○辺○枝等の供述を求めた結果、少年に対しては国から一ヶ月一〇〇〇円位の支給がある。少年の預貯金は全くない。又少年に対しては三三年一二月一日以降取調べの日迄に送金はどこからもなかつた旨の供述がなされ、夫々調書が作られた。
第三、審判の経過
大体以上の資料により三月二八日少年は検察庁に送られ事件は同日当家庭裁判所へ身柄と共に送致された。当裁判所では身柄は即日釈放し、越えて三〇日少年の当時の住所地なる岡山県○○郡○○町××○○○○園において調査、同日審判した結果、各送致事実は何れも認定出来るが、長期に亘る継続的保護処分(少年法第二四条各号の)の必要ないものと認め、其の席で厳重訓戒の上保護的措置がとられ、送致の各事実は少年法第二三条二項後段に該当するもとのして不処分の決定をなし、領置にかかる主文掲記の物件は少年法第二四条の二、一項三号の物件として没取となつたものである。
(外に空気銃一挺は銃砲刀剣類等所持取締法違反事件の組成物件として没取)
第四、審判後における情況
一、追送書類
以上を以て審判は一応終了したが、同年四月一四日付で追送記録が所轄警察署より検察庁を通して当裁判所に送致された。しかし因より審判終了後であつたためこれに対しては何等の処置もとられず、事件記録の末尾に綴り込まれたに過ぎなかつたが、その内容は概ね次のようなものである。
(一) 少年の自供調書(第三回、昭和三四年三月二八日付)
第一、二回の供述と異る主な点は、
三三年四月頃父からの送金四〇〇〇円を人伝てに受取つたことがある。
又八月頃父からの普通の手紙の中に一〇〇〇円入れたのを受取つた。その他には小包を一個受取つたが金は入つていなかつた。
等である。
(二) ○○園職員○辺○枝の供述調書(三四年三月二八日付)
供述の内容は少年宛郵便物の受領情況に付てのものであつて、三三年五月以降少年宛の郵便物(但し普通書状を除く)は、
イ、五月一五日現金書留一通――父より
ロ、九月四日書留小包一個――父より
ハ、一二月二六日書留封書一通――××郵便局より
とあつて、第一回の○辺の供述と著るしく異るが、初めの供述は調査不十分のための自分の誤りであつた旨の供述がある。
(三) 少年の父Hの供述調書
三三年一二月二四日に電報為替で四〇〇〇円少年宛送金した。
一月一〇日頃○○園に帰る旅費として少年に一〇〇〇円を熊本で渡した。
少年の自供する母に金を預けたような事実はない。
其の他二、三の供述調書が同時に追送された。
二、保護者少年等よりの各種申立
其の後昭和三四年五月二四日付で少年の父Hより願書と題する窃盗に付いては事実無根なる旨の書面、更に担当裁判官宛に同年九月二一日付申立書と題する少年名義の書面が当裁判所宛に提出された。その趣旨は不処分の理由を知りたいと云うにある。これに対して担当裁判官は、九月三〇日付で、
「申立人を保護処分に付さない旨の決定の内容は各犯罪に付いてその証明は十分であるが、保護処分に付する必要がないと認めた場合に該当する」
との趣旨の決定をして、少年に対して一〇月一日郵便でその旨を告知した。
更に越えて三五年五月九日付添人大原信一、扇正宏の両名より「再審の請求」と題する書面が当裁判所宛提出された。その要旨は結局のところ、銃砲刀剣類等所持取締法違反の件は認むるも、窃盗に付いては全くその事実がないから有罪である前提の下に為された不処分決定及び没取決定はこれを取消し、再度審判の上然るべき決定を求むと云うに在る。
第五、判断
依て審案するに追送記録のうち、○○園職員○辺○枝の司法警察員に対する供述調書の記載によれば、昭和三三年一二月二六日××郵便局出しの書留封書一通が少年宛に到達し、恐らくその日のうちに少年に手渡された旨の供述があつて、(郵便局差出しの書留封書であるから電報為替と想像される)その供述は同じく追送記録中の○○警察署司法警察員作成の「事実調査方について」と題する書面の、昨年一二月二五日少年の父Hが電報為替で四〇〇〇円を岡山県××郵便局区内○○郡××○○○○園○号寄宿舎R宛に送達した。父Hはその控を持つている旨の記載、及び同じく追送記録中Hの司法巡査に対するその旨の供述に符合する。
然らば、三三年一二月中には少年宛の送金がなかつた旨の○辺○枝の第一回供述調書は本人の認める如く誤りであり、又これに符合するような少年の供述は少くともその点において、真実に合致しないものであつたことが明らかである。従つて窃取した金員が帰省の旅費となつたもので、それ以外の金は少年の手許になかつたとする考え方は成立しないのみならず、少年の自供する金の使途は前記の如く全く虚偽であり、理由は必ずしも明らかでないが、供述の都度その内容が変り、金員を窃取したとの事実以外は全く矛盾に満ちたもので結局全体を通して真実性を認めることが出来ず自白として措信し難く、断罪の資料とするの価値に乏しいものである。
又唯一つの目撃証人であるKの供述の信憑力について考えるに同人は在園中の度重なる非行により、昭和三五年六月二六日○○園内の学校を退学処分となり、現在出身園たる××××園に復帰しており、以上の非行により復学は困難の模様であり、(○○○○園長回答)○○園在園中の非行のうち昭和三五年少第一五四七号横領事件は当裁判所に送致されたが以上の事情のため東京家庭裁判所に移送された。
以上の如く、其の後に判明した参考人Kの非行性、並に同人が供述する目撃当時の状況が、進んで盗品を示しながら、一方口止めに狂奔するが如き極めて不自然なものであつたこと等を彼此参照するときは、同人の供述は輙く措信し難く本件断罪の資料としてこれ又適切なものではない。然らば審判廷において一応の自白があつたとしても、少年の本件窃盗の事実はこれを認定するに足る十分の証拠がないことに帰着するから、窃盗の事実に付いては少年法第二三条第二項前段の保護処分に付することができない場合に該当する。
よつて窃盗に関する犯罪事実を認め同条第二項後段により不処分として保護的措置を取つた原決定及び没取の決定は、少年法第二七条の二によりこれを取消さなければならないものである。
よつて当裁判所は更に審判の結果同条に基き本件は保護処分ができないものとして上記決定及び没取決定を取消すべきものであるが、保護処分に付しない旨の決定は、これができない場合及びこの必要がない場合何れも主文において同一で変りがないから決定主文はそのままとし、没取決定のみを取消すことにする。
仍て主文のとおり決定する。
(裁判官 永江達郎)